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執筆者の写真奥野涼

0339








優しい猛毒に侵されたような。

悲しい抱擁に包まれたような。



どれだけ、カッコつけて形容しようとも、今の気持ちに当てはまる言葉はなかった。



ただ、ひたすらに

「悲しい。」のだ。



「当たり前にあるもの」

ほど

「当たり前になくなる」のだ。





これは、悲しいさよならのお話。


あくまで、普遍的な別れの話。


とても退屈で、窮屈な終わりの話。






もう、どれほど時を遡れば、出会った頃の話になるだろうか。



振り返った時、

「とてもフワフワとした出会いだった。」


という僕と、


「とても衝撃的な出会いだった。」

という君。



同じ「出会った1日」の事を、僕らは振り返った時に、正反対の言葉を吐き出す。



そもそも、その時点で僕らは「合わなかった」のかもしれない。




食べ物の趣味も、まるで違う。

好きな季節も、夏と、冬。

育ちも、良いと、悪い。

背も、高いと、低い。



言い出せばキリがないほど、正反対の僕らだった。




ここまで合わないものか!と笑ったあと、

二人で一生懸命「合いそうな」お題を考え、せーので答えを言い合っても、確実に狙ったように反対の答えを出した。




その度に

「ほら。やっぱり。」

と笑う僕と

「まだ絶対に何か合うものがある!」

とムキになる君。





そんな太陽と月のように「合わない」僕らが、どういうわけか少しずつ身を寄せ会うようになり、気が付けば恋人になっていた。

いや、なってしまっていた。






ここまで正反対の僕らが、短い時間ではあれど、向き合い、愛しあえた理由。




それは、

「君が僕の好きなものを愛する努力を惜しまなかった」

からだ。




僕も君と同じように、君の好きなものを愛する努力をしていれば、こんな事を書くこともなかったのだろう。





君はとても、美味しそうにご飯を食べる人だった。



お腹が空くと、とてもわかりやすく機嫌を悪くした。



だから、なるべくそういう時は、僕は黙っていた。

触らぬ君に、祟りはないと思ったから。



ご飯を美味しそうに食べた後、


「さっきは不機嫌になっちゃってごめんね。」

と恥ずかしそうに謝る人だった。



大好きだった。





コメダ珈琲のピザトーストを、人類で1番美味しそうに食べる人だった。



それを半分、僕にくれて、僕が美味しそうに食べると、また人類で1番幸せそうな顔をする、とても優しい人だった。





いたずら好きの僕が、ちょっとしたドッキリを仕掛けたり、怒ったふりをすると、すぐに泣くような子だった。




不安になり泣き、ドッキリだとわかった後、安心して泣く。

とても感情の忙しい人だった。





あまり友達が多くなく、人間関係に悩む人だった。



ある日では職場の、ある日では友人の、対人関係の悩みをよく聞いた。



自分を押し殺して、事無きを得るタイプの君がどこか可愛そうだった。



でも、とても優しい人だった。



その場面場面で、やはり僕は正反対の意見や行動を取った。



合わせることも、寄り添うこともなかったのだ。



奇跡的に合った歯車は、徐々にズレを生み出す。



時間にすると約三年という、短くも長くもない時間を二人で過ごしたのちに、僕らの恋は終わった。




最後の夜、子供のように泣き噦る君。

初めて、僕も君の前で泣く。



嫌いになったわけでもなければ、他に好きな人が出来たわけでもない。



ただ、なんとなく、いくら目を細めようとも、度の強いメガネをかけようとも、二人が同じ温度で幸せを感じている未来が見えなかったのだ。



僕らの恋は、始まりにも終わりにも、大した理由を求める事はなかった。






今でもふと思い出す。




あの時、幾度となくあったであろう分岐点で、どの選択をするのが正解だっだのだろうか。


また、その場面場面で正解を勝ち取っていれば、また違った未来が生まれたのだろうか。




それとも少しのタイムラグが発生しただけで、結果は同じだったのだろうか。



もっと上手に愛せていたら。

もっと上手に不安を隠せていたら。



悲しみはいつも、過去からやってくる。


さよならはどう料理したって、悲しいのだ。



君と過ごした日々に、贖罪の心で向き合わぬ日が来た時、また君に会えたらと思う。

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